オオヒラタクワガタの仲間の飼育

Dorcus titanus ssp.&Dorcus bucephalus

この記事を書いた隊士:λ(lambda)

 

・まずはじめに

このページではtitanus種の中でも東南アジア方面の熱帯に棲む大型種に絞って飼育を紹介します。

またtitanus種ではありませんがダイオウヒラタ Dorcus bucephalus も近似種(titanus種と交雑が可能)な上に飼育も似ているのでこのページで紹介します。

筆者のオオヒラタ自己ギネスは以下のとおりです。

 

・パラワン 108mm(羽パカ) 飼育方法:シワタケリレー飼育

・スマトラ(アチェ)95mm 飼育方法:マット飼育

 

……あまりパッとしませんが筆者の知るオオヒラタ飼育の全てをここで紹介します。

オオヒラタの累代飼育自体は非常に簡単で語る点がないので大型個体作出に絞って紹介します。

現在は諸事情で筆者はオオヒラタ飼育を一時的に休止(追記:2016年11月から再開しました!)していますが、皆様は本ページを参考に大型個体作出を目指してみてください。[図1]

[図1]95mmのスマトラヒラタ(アチェ)

 

 

 

・飼育環境を整える

大型個体作出の為にはまず温度が肝心です。

筆者が考えるオオヒラタ飼育の適温は18℃~20℃ですが、ここで要となるのは「温度の固定」となります。

要するに低温環境でも18℃と20℃を上下するような環境では温度ショックで蛹化スイッチが入ってしまい幼虫期間を延ばせなくなってしまいます。

 

よってここで構築すべきは「温度が固定された低温環境」となります。

 

また部屋丸ごとを固定温度で管理するのは難しいので(人の体温や電灯の光でも室温は上下しますし、サーキュレーターで空気を循環させるとしても部屋自体の断熱性を確保しないと外気にかなり左右されますのでハードルは高いです)低温の小型温室(以下「低温室」)を作るのが望ましいでしょう。

 

この条件で一般に低温室の選択肢として挙がるのは

・シーラケース様の「冷やし虫家」(ペルチェ式低温室)

・ブリーディングクーラーを組み込んだ自作低温室(コンプレッサー式低温室)

かと思います。

両者の長所と短所を見ていきましょう。

 

・シーラケース様の「冷やし虫家」(ペルチェ式低温室)の長所と短所

長所としては入手性の良さが挙げられます。また冷却装置にペルチェ式を採用しているので静音性に優れます。

また室温がある程度コントロールされていれば(~23℃程度)低温室内は一定温度で保たれます。

 

短所としては既製品であるが故に容量に対して価格が高いこと、またコンプレッサー式低温室と比較してペルチェ式低温室は電気代が高いことが挙げられます。(「ペルチェ コンプレッサー 比較」などで検索すると参考情報が色々と出てくるので気になる方はチェックしてみてください)

またペルチェユニットの壊れやすさがよく短所として挙げられます。

 

・ブリーディングクーラーを組み込んだ自作低温室(コンプレッサー式低温室)の長所と短所

長所としてはペルチェ式と比べて冷却能力が段違いにあることです。(過去にはプレハブ用クーラーをブリーディングクーラーとして再パッケージングして販売された超ハイパワーなものもあるくらいです)

断熱さえ適切に行われれば常温下での使用も理論上可能です。(あくまでも理論上の話で室温もある程度固定されていることに越したことはありませんが)

またペルチェ式と比べて電気代が安く、長寿命です。

 

短所としては上述の「冷やし虫家」と比べて入手性が悪いです。現状中古の出物を狙うしかありません。

またコンプレッサーを使用しているため稼働音が若干うるさいです。

ユニット備え付けのサーモスタットの性能があまり良くないため別途高性能なサーモスタットを用意しなければならないのも難点です。

 

初期投資に掛かる金額は両者とも大差ないのでどちらを採用するかは飼育者次第ですが、このページでは「ブリーディングクーラーを組み込んだ自作低温室(コンプレッサー式低温室)」を紹介します。(筆者が使用していたのがコンプレッサー式低温室であることと、シーラケース様の「冷やし虫家」は簡易組立後設置するだけなので特に語るポイントがないのです)

 

・ブリーディングクーラーを組み込んだ自作低温室(コンプレッサー式低温室)を作る

まずは材料を揃えましょう。(ブリーディングクーラー、ラック、サーモスタット、スタイロフォーム、コーキング剤)

上記のものが最低限の材料となります。これに加えてベニヤ板、複数の温度計、金具の蝶番や隙間テープ、フレームとしてアルミ材などがあるとより低温室としての完成度が上がるでしょう。

今回は最低限運用可能な簡素な自作低温室の作り方を解説していきます。

制作手順は大まかに[GIF1]となります。

[GIF1]コンプレッサー式低温室の組み立て手順

 

 

 

・ラック上部を切断する

ブリーディングクーラーの冷却部分がすっぽり嵌まるようにラックの天井を切断します。

ただのスチールなのでワイヤーカッターで切断できます。

ワイヤーカッターを持っていない方や切断に自信がない方は持っている方に図面を渡して代行してもらいましょう。

 

・ラックに冷却部分を嵌める

重いので大人二人掛かりでの作業を推奨します。(筆者は一人で組みましたがとてつもなくしんどかったです)

ラックは切り欠きをした状態での運用を想定していないため保証外の運用となります。自己責任で行いましょう。

かなりの荷重がかかるのでラックが歪まないように慎重に作業しましょう。

 

・ブリーディングクーラーとサーモスタットを接続する

ここで使用するサーモスタットはニューマリンズ様の「業務用 デジタル電子サーモコントローラー NETC-3  100v」です。

ブリーディングクーラーによっては単相200vかもしれませんのでその場合はそちらを購入してください。(コンセント形状が違うので一発で分かるかと思います)

元々アクア用品ですが空調管理においてもその性能は高いです。

このサーモスタットは活魚水槽以外での使用を保証していないのでここでも保証外の運用となります。自己責任で行いましょう。

サーモスタットのセンサー部をラックの中央に配置します。庫内の空気の温度を測るためセンサー部がラックの金属部と触れないように注意しましょう。

 

・スタイロフォームでラックを囲う

スタイロフォームでラックを囲っていきます。底面のスタイロフォームは予めラックを組み立てる際に敷いておいたほうが作業が楽です。ラックの支柱と底面スタイロの間にベニヤ板を挟むとスタイロフォームがラックの自重で凹まなくて良いです。

ブリーディングクーラー部分以外をスタイロフォームで囲っていき、スタイロフォーム同士の隙間はコーキング剤で接着しながら埋めていきます。

見れば分かると思いますがラックに乗っかったブリーディングクーラー部分は排熱の役割を持っているのでスタイロフォームで囲わないように注意しましょう。(見れば分かると思いますが念のため)

サーモスタットの操作部も低温室の外に出るように工夫しながら組み立てましょう。

 

・管理用に一部分を開閉可能にする

このままでは密閉されたタダの箱なのでスタイロフォームの一部分を開閉可能にします。

蝶番を使って前開きの扉にしても良いですし、はめ込み式の扉にしても良いと思います。

どうしても開閉可能にすると隙間ができるので市販の隙間テープ等で対策すると良いでしょう。(防塵目的の毛質タイプの隙間テープではなく、スポンジタイプの隙間テープがおすすめです)

 

これでコンプレッサー式低温室の完成です!

最後にブリーディングクーラーは最低温度に設定、サーモスタットの温度設定は「指定温度の±0.3~0.5℃で稼働」に設定しておきましょう。

電子サーモなので緻密な温度設定も思うがまま簡単にできます。

 

さてここまでで飼育環境が整いました。

次は種親の選び方を紹介します。

 

・種親の選び方

本ページでは「サイズ狙い」の飼育を行う為、種親の選別も重要です。

まずある程度大型の個体なのは最低条件です。(スマトラ95mm以上、パラワン100mm以上、両種メス50mm以上、フィリピンヒラタ、ダイオウヒラタのメスは40mm代後半あれば十分かと思います)

血統背景が良ければ数mm落としても良いかと思いますが基本的には上記のサイズを満たす個体が望ましいです。

また可能な限り、極太系や短歯系は排除していきます。

大顎の長さでサイズを稼ぐ作戦です。

 

・産卵セット

簡素なセットで簡単に産卵させることができます。マットと材の両方に産みますがマットだけでセットする飼育者が多いです。(筆者はどちらも試しましたが、まずはマットのみで産卵セットを組んでみて、産まないようなら材を入れる手法が良いと感じました)

使用するマットも特に銘柄は拘らなくて大丈夫です。筆者はRush様のレギュラーマットやバンブー・イン・セクト様のクワガタマットといった安価なマットを使用していましたがそれで十分に産みます。

産卵に使用する容器は4.2Lタッパー容器(コバエシャッター小相当)で十分です。上部に4~5cmの空間ができるように、握って固まる程度に加水したマットを固く詰めるだけでOKです。[図2] 

[図2] 産卵セット

 

 

 

温度は大体22~23℃程度が望ましいです。1セット大体15~40ほどの幼虫が得られます。

 

・幼虫飼育

割り出した初二齢はひとまず200cc程度のプリンカップで管理します。(1~2週間程度)

管理温度は22℃程度で良いでしょう。

 

ここからが要です。ここから低温室での飼育となります。

ここでどのような飼育法を選ぶかが重要です。

 

ここで選択肢として挙げられるのが

・通常のヒラタケ・オオヒラタケを使った飼育

・DDA様のF-ZERO菌糸を使った飼育

・マット飼育

・ヒラタケ・オオヒラタケ・マットからシワタケにリレーして飼育する「シワタケリレー飼育」

となります。

 

前者2つは他の隊士や知人のところで成績が良くないので選択肢から省きます。(メーカー品だろうとサイズが出ないなら話になりませんのでバッサリいきます)

 

残るは

・マット飼育

・ヒラタケ・オオヒラタケ・マットからシワタケにリレーして飼育する「シワタケリレー飼育」

の2つです

 

どちらも一般にはあまり採用されない飼育法ですが適切に行えばちゃんと大型化します。

まずはマット飼育から見ていきましょう。

 

・マット飼育

(筆者自己ギネス:スマトラアチェ95mm 知人宅ギネス:スマトラアチェ96mmUp パラワン107.9mm(羽パカ110mmUp))

※先に断っておきますが高価なマットは一切使用しません。※

 

マット飼育の利点として羽化した成虫が菌糸飼育特有のボテッとした腹部になり難い点があります。また菌糸飼育と比べて幼虫期間は1年半とおよそ1.5倍かかりますがその分幼虫体重の成虫体長への還元率は素晴らしく高いです。

難点としては食痕が見辛いので暴れや交換タイミングが分かり難いこと、水分量と劣化のコントロールに若干慣れが必要な点です。

しかしその難点をカバーできるほどの低コストと羽化成虫の体型の綺麗さがあります。是非挑戦してみましょう。

 

使用するマットはRush様のレギュラーマットと適当な安価な生オガ系発酵マットを半々に混ぜ合わせた非常に安価なものです。

これを握って固まる程度に加水し、ボトルに固詰めして使用します。菌糸を詰める際と同じように中央に底面まで穴を空けておきます。

1本目は雌雄ともに1500cc程度のボトル、2本目以降はメスは1500cc、オスは2300ccか3200ccボトルをどちらを使うか見極めながら使用します。(幼虫体重50g台まで2300、60台を超える大型幼虫は3200を使用すると良いかと思います)[図3][図4]

[図3]マット飼育で作出された大型の幼虫

 

 

 

[図4]更に特大の幼虫(こちらもマット飼育)

 

 

 

交換スパンは大体3ヶ月半程度ですが暴れたり、モリモリ食べて少々早めに食い上がってきた場合には次のボトルに交換します。

交換時は底面に幼虫がすっぽりと入る空間を作り、そこに投入します。(尻噛み防止と下層から食い上がらせる狙いがあります)

 

蛹化を確認したら後は羽化を待ちましょう。

マットが劣化していたり蛹体重を記録したい場合には蛹室から掘り出してオアシス(生花用吸水スポンジ)製の人工蛹室で管理します。[図5][図6]

[図5]65gの幼虫が蛹化した大型の蛹

 

 

 

[図6]70gの幼虫が蛹化した超特大の蛹

 

 

 

蛹化から大体1ヶ月半~2ヶ月ほどで羽化します。[図7][図8]

[図7]図5の大型蛹は107.9mmのビッグサイズで羽化した

 

 

 

[図8]図6の特大蛹はなんと多少不全気味ながら110mmUpで羽化!

マット飼育でもこのサイズが作出可能である

 

 

・ヒラタケ・オオヒラタケ・マットからシワタケにリレーして飼育する「シワタケリレー飼育」

(筆者自己ギネス:パラワン108mm(羽パカ))

かなり特殊な飼育法となります。最終的に放置飼育になるので放置系飼育者におすすめです。

因みに2015年ビークワギネスのマレーアンタエウスもシワタケで作出されたようです。

 

まず皆様が気になるであろうポイントとして「シワタケって何?」かと思います。

この飼育で扱う菌糸でありこの飼育法の要となるのがシワタケ菌床、微創研様の「MT160銀」です。

この菌床をご存知の方は「アンテが大きくなるやつだよね?」となるかと思いますが、同じ根喰い系のオオヒラタもこの菌床が非常にマッチします。

ヒラタケやオオヒラタケと異なりキノコが出ず、カワラタケのように皮膜が硬化せず、非常に持ちが良い魔法の菌床です。

使用法が他の菌床と全く異なるアプローチとなるため使用者は少ないですがとにかく凄いです。

 

まず1本目ですがヒラタケ、オオヒラタケ、マットのどれかをガチ詰めした1500ccを使用します。

この1本目の目的は「幼虫体重を”ある程度”乗せる」ことにあります。

おすすめはバンブー・イン・セクト様のヒラタケです。ガチ詰めすることと低温室での低温管理で1本目を3ヶ月半~4ヶ月引っ張ります。

1本目投入後1ヶ月後に微創研様の「MT160銀」を購入し4.2Lタッパー容器(コバエシャッター小相当)に詰めます。

ここが重要なポイントで決して固く詰めてはいけません。四辺4cmの角材を容器中央に置き、フチから2cm隙間ができる程度に詰めます。※2017/02/08追記 上記の詰め方をすると1ブロックにつき

400g程度オガが余ります

そして角材をそっと菌床から抜いて詰め完了です。[GIF2]

[GIF2]MT160銀の詰め手順

 

 

 

「こんな機械詰めみたいな緩さでいいの!?」と驚かれるかもしれませんがこれがベストです。

一連の作業が面倒と感じた方はあまりおすすめできませんがブロックのまま使用する方法もあります。

袋から取り出して4.2Lタッパー容器(コバエシャッター小相当)にそのまま入れて中央に直径4cm程度の穴を底面まで空けるだけです。

ただしこのブロックをそのまま使う手法では菌の活性が手詰めしたものよりも弱いのでMT160銀のスペックをフルには発揮できません。参考までにどうぞ。

 

詰めたMT160銀は低温室で2ヶ月半~ほど(要するに1本目交換まで)寝かせます。

このじっくり寝かせる作業が非常に重要です。焦らず待ちましょう。

 

2本目投入が飼育者が介入する最後の作業となります。

上記の通りじっくり寝かしたMT160銀に上述の作業で空けた穴の底面を広げ幼虫がすっぽりと入る空間を作り、そこに投入します。

幼虫はそのまま中央で居喰いを繰り返して巨大に成長していきます。

 

シワタケの特徴として「非常に良い持ち」があります。オオヒラタの幼虫に使っても8ヶ月は余裕で菌が持ちました。(その時点で羽化していたのでそこから先の菌の持ちは未知数です)

なので後は羽化まで低温室で放置します。(コバエが入ると流石に劣化してしまうので注意しましょう)

 

ここまで読んで、この飼育法に半信半疑な方も居るかと思われるので実際に筆者が飼育した際の記録を紹介します。

 

まず管理ミスでオス幼虫の1本目を24℃の800ccマットボトルで飼育してしまいました。

そして当たり前ですが画像のようなヒネたオス幼虫が出てきました。[図9]

[図9]最悪のコンディションのオス幼虫(図3の健康な幼虫と比べてみよう)

 

 

 

この時点での体重は18g、もう半分諦めてましたがじっくり寝かしたMT160銀ブロックをコバエシャッター小にそのまま入れた物に投入しました。[図10]

[図10]2ヶ月寝かせたMT160銀ブロックをそのまま入れたコバシャ小ケース

 

 

 

そして8ヶ月後、処分するつもりでひっくり返したら108mmの羽パカ成虫が現れたのです。[図11]

[図11]大型の成虫が羽化!諦めていたので驚きました

 

 

 

 

最終体重18g108mmです。[図12]

 

[図12]ノギスを当てた写真(左顎のほうが長いので短い右顎で計測)

 

 

 

「ヒネさせなければ不全しなかったかも……」と初期管理のミスをかなり後悔しました。

また最初のボトルでもう少し体重を乗せておけば大台の110mmを達成できたかもしれないと悔しい思いをしました。

 

ですがヒネた幼虫を108mmで羽化させるほどの、ポテンシャルのある飼育法だと再認識しました。

 

この記事で本飼育法に興味を持った方は是非挑戦してみてください。

 

 

・最後に

サイズ狙いのオオヒラタ飼育を一言で表すと「固定低温」だと思います。

それさえクリアすればマットでも菌糸でも大型個体が作出できます。

埼玉烈風隊内で盛んに大型作出のための飼育が行われていますので余品販売の機会は多いかと思います。

是非興味のある方は手にとってみてください。